IKEA効果とは?

IKEA効果とは、自ら手を動かして組み立てた商品に対して、他者が組み立てた同じ商品よりも高い価値を感じる現象を指します。
2011年に行われた、ハーバード・ビジネス・スクールのNortonらの研究では、自ら労力をかけて作った物の方が、他者が作った物に比べて4倍以上の価値をつけました。

https://www.hbs.edu/faculty/Pages/item.aspx?num=41121

この研究から、何かを物事を達成する際にかかる労力は楽な方がいいとは限らないことがわかります。
組織マネジメントにおいても同様に、このIKEA効果を活かしたマネジメントが考えられます。
今回はその一例として従業員参加型マネジメントを紹介したいと思います。

一般的なマネジメントと従業員参加型マネジメント

組織において、従業員のモチベーションやパフォーマンスをいかに向上させるかは、経営者や管理者にとって常に重要な課題と言えます。
一般的なマネジメントでは、上長が部下を管理するという仕組みになっていることが多いです。
従業員参加型マネジメントでは、「従業員が意思決定とプロセスに積極的に参加できるように体系化された経営モデル」とされています。
しかし、この定義では抽象的過ぎて、具体的に現場でどのように実践すればいいかがわかりません。
そこで近年では、応用行動分析学(ABA)の知見を活用した参加型マネジメントが検討されています。

従業員参加型マネジメントとABAの関係

従業員参加型マネジメントにABAを組み込み、具体的な定義に落とし込んだものとして、島宗・若松(2016)の研究では、会計事務所を対象にこのような内容を実践している。
①参加者自らがチームで経営目標の達成について話し合う。
②月ごとに決めた行動目標の遂行についてフィードバックを行う。
③目標達成に対して報酬を付与する。
この参加型マネジメントの導入によって、経営指数と収支の改善が報告されている。

また、山田・名取(2023)の研究では、上記の先行研究を受けて、一部内容を修正し、医療施設にて参加型マネジメントを実施している。
①目標を設定するプロセスにスタッフが参加できるように働きかける(意思決定への参加)。
②職場環境を改善する具体的な目標と行動計画をたてる(職務の明文化)。
③目標達成に向けて職務を遂行し、フィードバックを行う。
こちらも参加型マネジメントの導入によって、「人間関係が良い」や「働きやすい」などの意見が挙げられた。

参加型マネジメントのメリット

参加型マネジメントを実施したメリットとして、山田・名取(2023)ではいくつかのメリットを挙げている。

1.職務満足度の向上:組織目標に対するサブ目標(行動目標)を頻繁に設定することで、達成感を感じる頻度も高まり、職務満足度や勤務継続意思へつながる
2.勤務継続意思:          〃
3.生産性の増加:行動目標として、目標を具体的に設定したことでモチベーションの改善につながり、それが生産性の増加へ結びつく
4.職場環境の改善:それまでは一部リーダーが決定していた事項に、一般の従業員が関われるよう双方向のコミュニケーションを行い、スタッフの意思を丁寧に確認していくことで働きやすい職場環境へつながる

参加型マネジメントのデメリット

従来の参加型マネジメントは抽象的なモデルであったものを、ABAを組み込むことで、具体的に実践可能なレベルになりました。
そして、導入に伴い、経営指数の改善や職務満足度の向上など、様々なメリットが考えられます。
一方、参加型マネジメントは、既に信頼関係がある上でのコミュニケーションがないと、報酬やフィードバックに対する不公平感につながる可能性があります。
また、従業員参加型にすることは、従業員自身の負担を増やすことになります。
今までの仕事プラス、自身で行動目標を作成し、日々話し合うことは、負担が大きいというデメリットになります。

従業員参加型とIKEA効果

先程、参加型マネジメントのデメリットとして、負担の大きさを指摘しましたが、冒頭のIKEA効果を加味すると逆に参加型マネジメントの価値を高く評価する可能性があります。
IKEA効果とは、自ら構築することでその物の価値を高く見積もるというものでした。
参加型マネジメントも、従業員自身に行動目標を作成させることで、このマネジメント自体の価値を高く見積もる可能性があります。
これは、IKEA効果の一例として、従業員のエンゲージメントやモチベーションの向上に直結し、組織全体のパフォーマンスを高める重要な要素となるかもしれません。

まとめ

従業員参加型マネジメントは、IKEA効果を活かして従業員のエンゲージメントやモチベーションを高める効果的な手法と考えられます。
従業員が自らの手で目標を設定し、それに向けて努力することで、達成感や満足感を得ることができます。
このプロセスは、従業員の成長を促し、組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。

従業員参加型マネジメントを成功させるためには、透明性のある目標設定、定期的なフィードバック、チームでの協力、適切な報酬制度などが重要です。これらの要素を組み合わせることで、従業員が主体的に行動し、組織全体の成功に貢献する環境を作り出すことができます。

最後に、従業員参加型マネジメントの導入には時間と労力が必要ですが、その結果として得られる従業員の高いエンゲージメントとパフォーマンス向上は、組織にとって大きなメリットとなります。IKEA効果を活用した従業員参加型マネジメントを取り入れることで、組織の成功に向けた新たな一歩を踏み出しましょう。

 

 

参考文献

Norton, M. I., Mochon, D., & Ariely, D. (2012). The IKEA effect: When labor leads to love. Journal of Consumer Psychology, 22, 453-460.
島宗理・若松克則 (2016). 会計事務所で働くパート従業員を対象とした参加型マネジメント 行動分析学研究, 31(1), 4-14.
山田眞佐美・名取隆 (2023). 参加型マネジメントによる職場環境改善と勤務継続意志 関西ベンチャー学会, 15,80-91.