目次
吉野家は日本の牛丼チェーンとして知られていますが、「ある指導方法」を紐解くことで非常に優れた行動改善を実行していることが見えてきました。
そこで今回は、吉野家の「行動的な指導」について、応用行動分析学(ABA)の視点から紐解いてみたいと思います。
・吉野家の行っている効果的な指導方法を知ることができる
・ABAの視点で、この指導方法によるメリットを科学的に解説
吉野家の行っている「行動的な指導」
吉野家は、他の多くの飲食チェーンが採用している券売機を使用せず、直接的な接客を大切にしています。
そして、「お客様と目線を合わさなくても、お客様の動作の一部始終を把握している」という文化を大事にしているわけですが、これは単に「意識する」「心掛ける」といったことではなく、具体的な行動まで落とし込まれていました。
たとえば、吉野家の行っている「行動的な指導」として以下が挙げられます。
- お茶の追加
- 水の提供
一つずつ詳細を説明していきます。
お茶の追加
吉野家では、お客様がお茶を飲む際にコップの角度が高くなると、お茶を追加するように指導されています。
お茶を飲むときに角度が高くなれば、それは「お茶の量が少なくなっている証拠」として、すかさずお茶を追加するということですね。
水の提供
吉野家では、お客様が食後に胸ポケットを探れば、それは「薬を取り出す仕草」として、すかさず水を持っていく指導をしています。
つまり、お客様から要求されるより先に、お客様の動きによって求められるサービスを提供しているというわけですね。
行動改善の効果
これらの手法は応用行動分析学の観点から見ても理にかなっており、すべきことの合図を行動レベルまで具体的に落とし込むことによって、顧客の負担を減らしています。。
一般的な牛丼チェーンは「精神的な指導」に終始
多くの牛丼チェーン店では「水が切れないように注意を払う」などの精神的な指導が主流です。ただ、このアプローチではかなり抽象的で、実際に行動に落とし込めないという問題点があります。
精神的な指導はあくまで「従業員の注意を高めること」に終始してしまうため、実行にばらつきが出やすく、組織全体の行動改善という意味ではあまり効果が出ないといわざるをえません。
「精神的な指導」と「行動的な指導」
「精神的な指導」と「行動的な指導」について、もう少し例を出してみましょう。
たとえば、多くのレストランチェーンでは、以下のような「精神的な指導」が行われることがあります。
- お客様が来店したらすぐに席に案内することを心がける
- テーブルが汚れているときはすぐに清掃することを忘れないように
これらはそれぞれ具体的手順が示されておらず、従業員の経験や判断に頼る部分が大きくなり、実行にばらつきが出やすくなります。
一方、「行動的な指導」をするとどうなるでしょうか?
- お客様が店内に入ったら、30秒以内に席に案内する
- お客様がテーブルを離れたら、すぐにテーブルの上にあるすべての食器を片付け、テーブルを消毒する
これらであれば、具体的な行動まで落とし込めるので、従業員の行動を統一しやすくなります。
行動的な指導を行うメリット
ここからは、行動的な指導を行うメリットについて、ABAの視点から見ていきましょう。
行動的な指導を行うメリットとして下記3点が挙げられます。
- 顧客の行動コスト削減
- ブランドの差別化
- 経験や言語を問わない接客指導マニュアル
それぞれ説明していきます。
経験や言語を問わない接客指導マニュアル
「お茶のおかわり」といった飲食の基本的接客でも、「お茶が切れたら即声がけする」「無くなるかどうか注意する」などは適切な指導とは言えません。
即声がけするためにどこに着目しておけばいいのか、注意するとはどこに目線を配らせればいいのかまで落とし込んでこそ、適切なお茶指導と言えます。
これは他の職種でも同様です。
例えば、「ミスしないように注意して」などは同じくダメ指導です。
ミスしないようにするためには、どこをどのように確認するのかを指導しなければなりません。
そのためには、指導者が教えたいスキルを行動レベルまで落とし込む必要がありますが、これが難しいのも現状です。
なぜなら、指導者はスキルや経験が豊富で、”当たり前”になっているからです。
”出来る人”にとっては行動レベルに落とし込む必要はなく、「お茶の即時提供」で問題ないです。
問題は”出来ない人”です。”出来ない人”には、「即時提供するためにはどの行動を見たらいいのか」を教えてこそ優れた指導者です。
ブランドの差別化
行動的指導で、コップではなく、湯呑みという中身が見えない容器でも、他社と同等以上のお茶提供スピードが担保できます。
このブランドの差別化は、顧客の心に強い印象を残し、他の競合との差別化を図る重要な要素となります。
経験や言語を問わない接客指導マニュアル
未経験のバイトや、複雑な言葉がわからない外国人スタッフでも、マインド教育から顧客の行動を合図とすることで、安定した接客をもたらします。
スキルや知識が不足している人だからこそ、どんな顧客の行動を合図に、どのような接客をすべきなのかを教える必要があります。
そして、そのためには、指導者や会社側が、「お茶や水が欲しいときの予備動作(一歩手前の行動)は何か」を行動基準まで落とし込めなければいけません。
まとめ
ここまで、吉野家の「行動的な指導」について、応用行動分析学(ABA)の視点から紐解いてみました。
吉野家は、顧客の合図を体的な行動に落とし込むことで、顧客の行動コストを減らしています。
行動コストとは、行動するにかかる負担や労力のことです。
お茶や水が欲しい時に、自ら「すみませーん。お茶貰お願いします。」と発言させることは、顧客の行動コストを上げています。
しかし、発言させる前の合図として、湯呑みの角度や胸ポケットを探るといった行動に焦点を当てることで、行動コストを減らし、居心地の良い空間に寄与しています。
参考サイト:“なぜ、「券売機」を置かないのか:吉野家式会計学(3)”|PRESIDENT Online.2008-12-17.https://president.jp/articles/-/1170,(参照2024-6-25)